• HOME
  • 鑑賞
  • 風景画
  • “馬好きのための絵画” ジェリコー 作『突撃する近衛猟奇兵士官』を鑑賞する

“馬好きのための絵画” ジェリコー 作『突撃する近衛猟奇兵士官』を鑑賞する

風景画

作品概要

  • 作品名 突撃する近衛猟奇兵士官
  • 画家 テオドール・ジェリコ―(1791年 ~ 1825年)
  • 制作時期 1812年ごろ

ジェリコーについて

概要

テオドール・ジェリコーは19世紀にフランスで活動した画家です。

画家の感受性を尊重した“ロマン主義絵画”の先駆者とされており、勇壮な騎兵などを描きました。

なかでも話題を呼んだのが、本稿で紹介する『メデューズ号の筏』です。ジェリコーはこの作品により、多くの批判を浴びました。

生涯

作品背景

ヒトと馬の歴史は非常に深く、旧石器時代(約20000年前)には食料のために狩猟が行われていたそうです。それが証拠に、フランスにあるラスコー洞窟の壁画には馬も描かれています。

もともと馬の原種は北アメリカに生息していましたが、長年の狩猟によりほぼ絶滅してしまいました。

そこで人類はユーラシア大陸で辛うじて生き残っていた馬たちを用い、ウマを繁殖・家畜化することに成功します。(今から約6000年前の出来事です。)

この時点で人類は牛やヤギと言った動物たちを家畜化していましたが、それぞれの役割は異なっており、例えば牛は農耕に用いられていました。

 

一方で馬はと言えば、馬車を始めとした移動用の手段として重宝されます。

古いものでは、紀元前2000年のメソポタミア文明において車輪の進化に伴う馬車の開発にその痕跡が見られますね。

紀元前1000年ごろからは“騎馬”の概念も生まれ始め、本格的に馬は戦争の道具としても重用され始めます。

 

日本列島においてはユーラシア大陸と地続きだった時代から馬は生息していたものの、氷河期が終わる頃の草原の減少をもって絶滅してしまいました。

しかし古墳時代において、朝鮮半島から馬が輸入されたことがきっかけで日本で繁殖がされ始めます。

雄略天皇(ヤマトタケル、ワカタケル)の時代には、これによる武力強化により、大和政権の東日本への支配拡大がなされたと言われています。

 

このように人類史において馬は、戦車の登場までの数千年間に渡り人間の争いの歴史に寄り添ってきました。

鑑賞

大きいサイズはこちら

あらためて作品を見てみましょう。

テオドール・ジェリコー 作『突撃する近衛猟奇兵士官』です。

 

戦争の最中にて後方を振り向き、部下を鼓舞する士官を描いた作品です。

士官が手綱を強く引いた為に馬は前脚を持ち上げ高く嘶いていますね。

ジェリコーは生涯にわたって“馬”を題材に使った無類の馬好き画家であり、たてがみや尻尾の繊細な描写はもちろんのこと、脚の付け根や首の筋肉の描写にも余念がありません。

背景には炎と煙が充満しているためか、馬もまた一段と興奮しているように見られます。そしてその最中においても、冷静に戦況を把握せんとする士官との対比が美しいですね。

感受性を重視するロマン主義と、現実をありのままに捕らえんとする写実主義の間で揺れ動いた、ジェリコーらしい作品と言えるでしょう。

 

最新のカメラでも切り取ることができないほどの刹那のタイミングを、ジェリコーの目は確実に捉えました。

その証拠か、この作品は彼が初めて出展したサロン(官展)において金賞を受賞しています。

 

この作品はフランスのルーブル美術館に所蔵されています。(外部リンクに接続します。)

ピックアップ記事

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA