浮世絵の新時代を築いた男 -川瀬 巴水 作 『牛堀』を鑑賞する-
目次
作品概要
- 作品名 牛堀
- 画家 川瀬 巴水(1883年 ~ 1957年)
- 制作時期 明治後期~大正
巴水について
概要
川瀬 巴水(かわせ はすい)は明治末期から昭和にかけて活躍した浮世絵師であり、
明治初期から始まった西洋画の隆盛によって衰退していた浮世絵の再興に尽力しました。
彼が日本各地を旅する中で描いた風景版画は『新装画』と呼ばれ、高い評価を得ました。
また、巴水の名は国内よりもむしろ国外でよく耳にするそうで、北斎や広重に並ぶ人気があるようです。
生涯
巴水は1883年(明治16年)に東京の組紐職人の家に生まれ、10代の時に青柳墨川や荒木寛友のもとで日本画を学びます。
その後一度は家業を継ぎますが、画家への夢を捨てきれなかったため家業を妹夫婦に預け、再び画家への道を歩みました。
始めの2年は洋画家として活動しましたが、その後日本画家の鏑木清方のもとで日本画を収めたようですね。
35歳の時に師から受け継いでいた美人画に限界を感じた巴水は、同門であった画家の版画『近江八景』に着目します。
そして終生に渡り雪や夜をテーマにした詩情的な作品を多く手掛け、晩年には無形文化財技術保持者(人間国宝)に選ばれました。
そして人間国宝認定より5年後、胃癌のため74年の生涯に幕を引きました。
鑑賞
あらためて作品を見てみましょう。
『牛堀』は巴水が50歳のころに制作していた風景画シリーズで、現在の茨城県潮来町に存在していた地名だそうです。
巴水は『雨の牛堀』や『夕暮乃牛堀』のようにこの場所を描いた作品を多く残していますが、この作品はその中でも特に情景描写にすぐれた作品だと思います。
それまでの浮世絵にはなかった透き通るような青と、そこからグラデーションしつつ描かれた雪の白さのバランスが素晴らしいです。見るだけで、体の芯から冷えていくような錯覚を覚えつつも、細部まで魅入ってしまう神秘性を感じました。
早朝なのか夜なのか判断は分かれるかもしれませんが、奥の民家の暖かな明かりが凍えるような寒さをさらに強調していますね。
江戸時代の浮世絵にはなかった鮮やかな青色は西洋画技術との融合の象徴であり、浮世絵の新時代を告げる『New Japan Blue』と言えるでしょう。
同時に湖面に映った光や効果的なグラデーションも、日本画の表現の可能性を広げました。
北斎がこの絵を見たら嫉妬心を感じながらも可能な限り技術を吸収しようとするでしょう。
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