“伝統と革新の狭間で” 後編 ルノワール作『薔薇を持つガブリエル』を鑑賞する
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作品概要
- 作品名 薔薇を持つガブリエル
- 画家 ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841年~1919年)
- 制作時期 1911年
ルノワールについて
概要
ピエール=オーギュスト・ルノワールは19~20世紀にフランスで活躍した画家です。
モネやピサロとともに印象派の確立に貢献した画家の一人ですが、世間からの非難を浴びたために自身の印象派画家としてのスタンスを疑問視することもありました。
彼の評価が確固たるものになるのは50歳を越えてからでした。
生涯
世に認められる
50歳を越えるころにはルノワールの評価が確立しはじめ、同時に多くの仕事が舞い込むようになりました。
51歳の時に作成した油彩画は現在の日本円にして約800万円で政府に買い取られました。
またデュラン=リュエルは継続的にルノワールの個展を開いており、好評を博しました。
私生活も豊かになり、50歳にして正式に妻を娶ります。
彼女との間にはすでに長男が生まれていましたが、結婚後に次男、三男も生まれました。
59歳の時のパリ万博では11作品が展示され、名実ともにフランスを代表する画家の一人となりました。
晩年
60歳を越えるとルノワールは関節リウマチに侵されます。
彼の子供たちはまだ幼かったですが、子煩悩であったルノワールは融通の利かない体を酷使して子供たちの作品を描きました。
その瞬間を永遠に収めるために、感動を保存するために描きたかったのでしょう。
70歳を迎えるといよいよ歩行に支障が出たため、車いすで生活し、かつ階段のない家に引っ越しました。
それでも彼が名声を得続けたのは変わらぬ芸術への情熱があったからでしょう。
腕が硬直し指すら満足に使えなかったルノワールは、筆を腕に縛り付けてキャンパスに向かったそうです。
そこにあったのは義務でもプライドでもなく、“楽しい”というシンプルな感情でした。
アトリエにはピカソやマティスといった、のちの時代を作る若い芸術家たちが足繫く訪れていたようです。
そして1919年。巨匠は78歳の生涯を閉じました。死の間際ですら筆を欲したそうです。
この半年前にフランス政府はルノワールにレジオンドヌール3等勲章を授与しています。
鑑賞
あらためて作品を見てみましょう。
ピエール=オーギュスト・ルノワール作『薔薇を持つガブリエル』です。
描かれている女性ガブリエルは、妻の親戚にあたる人物です。
描かれたのは1911年ですので、ルノワールは腕に縛りつけた筆でこの作品を描き上げたということですね。
輪郭線は印象派の特長を色濃く反映させており、背景や女性をまとう空気が人物の慈愛を物語っています。
ガブリエルはルノワールの子供たちをよく世話していたそうですので、彼女を母性の象徴としてみていたのでしょうか。
老いた自分の代わりに子供と遊んでくれるガブリエルは、ルノワールにとって家族同然であり、すなわち永遠に残すべき人物の一人となりえたのでしょう。
この作品はフランスのオルセー美術館に収蔵されています。
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