“クォ・ヴァディス” カラッチ 作『アッピア街道で聖ペトロの前に現れたキリスト』を鑑賞する
目次
作品概要
- 作品名 アッピア街道で聖ペトロの前に現れたキリスト
- 画家 アンニーバレ・カラッチ(1560年~1609年)
- 制作時期 1601年ごろ
カラッチについて
概要
アンニーバレ・カラッチは16世紀のイタリアで活躍したボローニャ派の画家であり、
また、イタリアでのバロック芸術の成立に大きく貢献した画家の一人です。
後進の育成にも熱心で、カラッチの門下からは多くの芸術家が排出されました。
彼の功績により、イタリア芸術はマニエリスムを抜け出しています。
生涯
アッピア街道とは
アッピア街道はローマとブリンディジを結ぶために作られた石作りの道路であり、現存する街道の中では最も古い部類に数えられるものです。
その歴史は紀元前にまでさかのぼるため、多くの歴史を見てきたと言えましょう。
ローマ帝国滅亡後一時は荒廃していましたが、18世紀のローマ教皇により修復されました。
現在は自転車道としてその姿を残しています。
聖ペトロについて
聖ペトロは紀元前1世紀ごろに実在したキリスト教徒であり、イエス・キリストの最初の弟子(使徒)とされる人物です。
ある日、湖のほとりで漁をしていたペトロはそこへ立ち寄ったイエスの説法を聞き弟子となりました。
イエスはペトロよりも年下だったそうですが、長幼を凌駕するカリスマ性に魅入ったそうです。
以降、キリストの弟子が増えるとペトロはそのまとめ役として働き、一説によればその後初代ローマ教皇となったそうです。
死後その遺体はローマ郊外のバチカンの丘に埋められ、さらにその数百年後にはそこに聖堂が立てられました。
これが後にカトリックの中枢となる“サン・ピエトロ大聖堂”(聖ペトロの大聖堂)です。
鑑賞
あらためて作品を見てみましょう。
アンニーバレ・カラッチ作『アッピア街道で聖ペトロの前に現れたキリスト』です。
ローマに異教を伝えんとするイエス一行を、時の皇帝であるネロは厳しく弾圧しました。
迫害に対し心身ともにボロボロになったペトロは、ローマから逃げるためにアッピア街道を歩いていましたが、前方からローマに向かって歩くイエスに出会います。
ペトロが
「Domine, quo vadis ?(主よ、どこへいかれるのですか?)」
と問うと、イエスは
「あなたが民を見捨てるのならば、私が再びローマへ十字架をかけに行く。」
と答えました。
その覚悟に感銘を受けたペトロは、殉教も辞さず再びローマに向かったそうです。
自らの死よりも人々の救いを願った、二人の精神がよくわかるエピソードですね。
作品では、まさに二人がすれ違う瞬間が描かれています。
マニエリスムの絵画たちの多くは、自然の構造を無視した肉体をもって描かれることが多いですが、この作品では二人をあくまで人間として写実的に描いていますね。
一見すると、聖人たちの神性に対する冒涜と捉えられるかもしれませんが、裏を返せば神話と歴史を地続きに語るという意義を持っていますね。
カラッチの描くイエスは逞しく、同時に柔らかみに溢れており、その視線は導くべき民を見据えていますね。
一方で背景はルネサンス的な遠近法が見られるものの、パースは人体と比べて幾分不自然に感じます。
この作品により、二千数百年前に起きた宗教事件は未来永劫に渡り我々の記憶に残り続けるでしょう。
この作品はロンドン・ナショナルギャラリーに所蔵されています。(外部リンクに接続します。)
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