“行者の境地” 狩野 芳崖作『伏龍羅漢図』を鑑賞する
目次
作品概要
- 作品名 伏龍羅漢図(ふくりゅうらかんず)
- 画家 狩野 芳崖(1828年~1888年)
- 制作時期 1885年(明治18年)
芳崖について
概要
狩野 芳崖(かのう ほうがい)は江戸時代末期から目地時代初期にかけて活躍した日本画家です。
その名の通り狩野派の画師であり、かつ狩野派最後の画師となりました。
文明開化により衰退しかけた日本画を橋本 雅邦とともに再興させた”近代日本画の父”であり、早世ながら東京藝術学校の創設にも尽力した偉人です。
生涯
作品背景
羅漢(正式には阿羅漢)とは、仏教において悟りを開いた人間のことを指します。
仏教における悟りや修行の解釈は宗派により異なりますが、基本的に人間道を生き、修行に励む者は僧もしくは行者と呼ばれます。
彼らは、各々の宗派に沿った修行の中で精神に向き合い悟りを目指します。
しかし釈迦が説いた悟りの境地への道は非常に険しく、人生を全て捧げても到達することができないことも多々あるでしょう。
ですので輪廻転生を繰り返し、魂を高潔なものにせんと目指すのですね。
六道においては、人間道で悟りを開いた者は天道(仏の世界)に転生し、如来を目指し修行に励むとされています。
すなわち羅漢とは人間道での修行を終えて、天道へ至るための準備を行う者を指します。
密教における千日回峰行を満行した阿闍梨は、不動明王と同じ神格を持つ生き仏として崇められていますが、羅漢もまた同じような性質であると言えますね。
人々はその神性に救いを求めるために、昔から多くの羅漢増を制作してきました。
鑑賞
あらためて作品を見てみましょう。
狩野 芳崖作『伏龍羅漢図』です。
その名の通り、龍を伏せたとある羅漢を画いた作品です。
本来高潔で時には獰猛であるはずの龍が、まるで主人になつく猫のようにリラックスしています。
羅漢は気難しい顔で眼差しを虚空へ向けており、まるで厭世を嘆いているかのようですね。
その後ろからは後光が生まれ始めていますが、その中にあるものは仏となった羅漢の影でしょうか。
別記事で紹介している通り、アーネスト・フェノロサは芳崖に、西洋画の持つ写実性と遠近的手法を託しました。
芳崖はそれを持って、うっすらと植物が生える洞窟を、そして神格を持ちながらもあくまで”人”である羅漢を正確に紙に残しました。
当時芳崖は肺を病んでいましたが、フェノロサから託されたもので日本画を昇華させんと苦心した末に生まれた作品の一つが『伏龍羅漢図』です。
当然芳崖に限ったことではありませんが、作品には画家の命が込められているのですね。
この作品は福井県立美術館に収蔵されています。(外部リンクに接続します。)
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