“空を写し取る” 山元 春挙 作『奥山の春』を鑑賞する
目次
作品概要
- 作品名 奥山の春
- 画家 山元 春挙(1872年~1933年)
- 制作時期 1933年ごろ
春挙について
概要
山元 春挙は明治から昭和にかけて活躍した、京都四条円山派の日本画家です。
明治期の日本画は、岡倉 天心やアーネストフェノロサが再興した後、横山大観や川合 玉堂らによって近代日本画へと進化しました。
春挙はその流れを継承しつつ、昭和の時代まで日本画壇を牽引し、また竹内 栖風とともに京都画壇の筆頭と呼ばれた人物です。
生涯
日本画の色彩
日本画に使われる絵の具は、その原料の根源において大きく3種類に分けられます。
岩絵具
もっとも代表的なものは岩絵具でしょう。
これはその名の通り、岩石を砕いたものから作成された絵の具です。
色彩の種類も豊富で、群青(ぐんじょう)から緑青(ろくしょう)、朱色、黄色、褐色などを表現することができます。
生成方法もシンプルで、岩石を砕いたものを膠(にかわ)で溶かすことで作れました。
その砕き方、つまり粒子の粗さにより色合いを調整することも可能で、粗く削れば暗くもビビッドな色合いに、細かくすることで白く明るい色合いを作り出すことができました。
しかしながら天然の鉱石は貴重であったため、手に入れることが難しくかつ高価でした。
その欠点を克服したものが人工岩絵具です。
これらが世に出たのは戦後で、研究の末に混色もできるようになったそうですよ。
この発明が日本画界に与えた影響は甚だ大きく、中間色の創造により表現の幅は格段に広がったと言えます。故に現代日本画は、西洋画と遜色ない明るく楽園的な世界観ですら表現できるようになりました。
植物・動物絵具
岩絵具ほどではありませんが、広く使用されていたものがこれらです。
なかでも藍や紅花から作られる染料は、染物や口紅など、日本社会全体で広く使用されていました。
人体への有害性があまりないことが特徴であり、日本画の核である“墨”もここに帰属します。(植物油のすすから作られます。)
動物由来の絵具の代表格は珊瑚でしょう。
これは小笠原諸島などで採れるアカサンゴを原材料としており、当時から非常に高価だったそうですよ。
西洋画においても絵具は鉱石由来のものが主でしたが、大航海時代を経た西洋画界には世界中から色彩が集まっていました。
逆に日本画では、調達できる範囲での色彩を工夫し、絵師としての技術も練磨することによってその世界観を広げていったのですね。
鑑賞
あらためて作品を見てみましょう。
山元 春挙 作『奥山の春』です。
深山幽谷に流るる清流
晩年の春挙が1.6m×0.7mの絹に画いた、山水画の大作ですね。
この作品が画かれたのは戦前ですので、人工岩絵具は使われていません。即ち春挙は、気まぐれに変化する天然の岩絵具に付き合い、またそれらを完全に御してこの彩を作り上げたと言えます。
色合いのメリハリが素晴らしいですね。
手前に下がる松はしなやかに垂れながらも、はっきりとした風合いの存在感を出し、奥に流れる川は非常に滑らかに斜面を撫でています。
水の飛沫か山の霧か、画全体は靄のかかったように白みがかる、まさに“朦朧体”の雰囲気を纏っています。
古今の日本画を見回しても、これほどまでに優雅な流水を画いた作品は少ないでしょう。
その色は一般的な水のイメージとはかけ離れているのにもかかわらず、空を映したかのような水面は現実的な美しさを抱え、それでいてどこか浮世離れした幽世を連想させますね。
まるでこの作品全体が、地球をまとめ上げたかのような統一感を持っています。
枝にとまった山鳥が、今にも騙されて落ちていきそうですね。
この作品は足立美術館に収蔵されています。(外部リンクに接続します。)
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