“産業革命を描く” ジョセフ・ライト作『賢者の石を探す錬金術師』を鑑賞する
目次
作品概要
- 作品名 賢者の石を探す錬金術師
- 画家 ジョセフ・ライト(1734年~1797年)
- 制作時期 1771年ごろ
ライトについて
概要
ライトは18世紀に活躍したイングランドの画家です。
彼は明暗法の扱いに長けた画家で、風景画や肖像画を得意としていました。
ライトの生きた時代は啓蒙時代と呼ばれており、錬金術から発展した科学と、それまでの社会の中核を担っていた宗教が衝突した時代でもありました。
生涯
作品背景 -錬金術師たちと賢者の石-
錬金術師とはその名の通り、金の生成を命題としていた者たちの事です。
現代で言う化学が発展した中世ヨーロッパでは、その技術を昇華して卑金属を貴金属に錬成できないかと考えるようになりました。
(錬金術師の起源そのものはアリストテレスやパラケルスス(ホーエンハイム)といった古代ギリシャ、アラビア人にあります。)
そして、賢者の石は彼ら錬金術師が生涯追い求めたとされる物質です。
文献によると、賢者の石は金を生成する際の触媒となる唯一の物質であり、水銀に何らかの処理を施すことで生成することができると考えられていました。
また、錬金術は古代中国にも伝っており、不老不死の霊薬“仙丹”を得るための練丹術として研究が進められていました。
長い研究の結果、金の生成が不可能であることが認知されると、当然錬金術もまた消滅していきます。
しかし、その過程で発見された塩酸や硝酸などの化学物質、またそれらを生成するための手法や道具たちは、現代化学へ受け継がれています。
鑑賞
あらためて作品を見てみましょう。
ジョセフ・ライト作『賢者の石を探す錬金術師』です。
作品に描かれているのは、錬金術師が賢者の石を生成するために大量の尿を煮詰めている様子です。
当然、このような手法で霊薬ができることはありませんでしたが、かわりに人類は新元素 リンを発見しましたね。
作品からわかるように、ライトは科学史における重要な事件の一つであるこのエピソードを、神秘的に描くことに成功しました。
またこの作品を始めとして、ライトは産業革命において重要なピースとなる数々の発見を絵画に残したそうです。
また、作品からは彼がそれぞれの発見を非常に神聖に捉えていたこともわかりますね。
その証拠に、大量の尿を煮詰めているはずの醜悪な実験室が、まるで神聖な教会の中であるかのような雰囲気を醸し出しています。
これはアーチ状の建物構造の他、ライト特有の天才的な光の当て方・描き方によるものでしょう。
本来、宗教が最も敵対意識を持っていた科学を、ライトは1つのキャンバスに収めました。
これは、啓蒙時代に感じたライトのもやもやとした感情から来た、ささやかな反抗だったのかもしれません。
この作品はダービー美術館に収蔵されています。
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