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“ローマは彼のために” ベルニーニ 作『聖テレジアの法悦』を鑑賞する

宗教画

作品概要

  • 作品名 聖テレジアの法悦
  • 画家 ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ(1598年~1680年)
  • 制作時期 1650年ごろ

ベルニーニについて

概要

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニは17世紀に活躍した、イタリアの彫刻家です。

バロックを代表する彫刻家であり、ローマ教皇たちの依頼のもと、青年期から多くの作品を手がけ、その作品たちは「奇跡」とすら形容されました。

人々は“彼はローマのために生まれ、ローマもまた彼のためにある”と評したそうです。

生涯

彫刻家のもとに生まれた神童

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニは1598年に、イタリア南部の都市ナポリに生まれました。

彼の父親は彫刻家であり、枢機卿や教皇の庇護のもと数々のキリスト教彫刻を制作しています。

 

この環境下で、その息子が彫刻に興味を持つことはごく自然なことであり、

また、ルネサンスの余波で芸術・彫刻界には新たな技術が溢れていたため、ベルニーニは最高の環境下で才能を育てることができました。

(ルネサンスに反するような考え方も新たに生まれていたため、この時代はあらゆる意味で“革新性”に満ちた時代と言えましょう。)

初期の活動

ベルニーニの才能開花は、多くの天才たちの中でも抜きん出て早かったと言われています。

例えば、17歳の時に制作した古代ギリシャ製のものを模倣した彫刻は、質感まで再現したがために、考古学者を欺くことができていたそうです。

また翌年からの8年間では4体の彫刻を制作していますが、この仕事でベルニーニへの名声は確固たるものになりました。

 

そしてついには教皇ウルバヌス8世の依頼で、サン・ピエトロ大聖堂や彼の墓碑の制作を依頼されるまでになります。

サン・ピエトロ大聖堂は、ミケランジェロを始めとしたルネサンスの巨匠たちの作品が収められた彫刻の殿堂であり、ベルニーニは最高の栄誉と信頼を与えられたと言えましょう。

事件

しかし、順風満帆だったベルニーニの制作活動に、突如暗雲が立ち込めました。

43歳の時、彼が設計したサン・ピエトロ大聖堂の部分から、大きな亀裂が見つかったのです。

 

天才に対して潜在的にたまっていた嫉妬は爆発し、人々は手のひらを返したように彼を糾弾します。

「ベルニーニは見かけばかりを重視し、実用性を無視する彫刻家だ」

どの時代でも、人の持つ妬みは変わらないのですね。

 

また彼に仕事を依頼していたウルバヌス8世は逝去し、後任としてインノケンティウス10世が教皇となります。

インノケンティウスは、極めて経済面で厳しい手腕を振るった教皇であり、この時期から芸術家たちへの制作依頼は少しずつ減りました。

芸術の時代

再びベルニーニに大きな仕事の依頼が来たのは、1656年(ベルニーニ 58歳)です。

この前年に、アレクサンデル7世が教皇に即位しましたが、彼は芸術を重んじるタイプの教皇だったそうです。

 

アレクサンデル7世はベルニーニに対し、“サン・ピエトロ広場”の制作という難題を命じます。

この依頼が来た時、サン・ピエトロ大聖堂の前はただの空き地でした。

 

現在のサン・ピエトロ広場には中央のオベリスクを囲むように、円形にエンタシス柱が列を成して並び、柱の上には聖人たちの像が置かれています。

 

実に11年の歳月をかけて、ベルニーニはこの空き地を神聖な劇場へと進化させました。

角度によっては4列の柱が重なり、広場の外をパノラマで見ることができるそうです。

ベルニーニにとってこの場所は、聖域であるとともに巡礼者を迎えるための門でもあったのですね。

 

この他にもベルニーニは、81歳で生涯を閉じるまでに、西洋彫刻及び建築に対して新たな可能性をもたらし続けました。

鑑賞

 

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あらためて作品を見てみましょう。

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ 作『聖テレジアの法悦』です。

 

これは修道女テレジアが体験した、奇跡を題材にした彫刻です。

 

ある日、テレジアの前に一人の天使が現れ、彼女の胸を槍で貫きます。

驚きと苦痛がテレジアを襲いますが、彼女はその中から湧き上がる謎の”悦び”を感じました。

次第にテレジアの精神はその悦びに支配されますが、彼女はこれを、心が神性で満たされる悦びであると認識します。

この瞬間、彼女の魂は神とともにあり、テレジアはこの体験をもたらしてくれた神に深く感謝し、跪いたそうです。

 

 

作品では気絶寸前のテレジアに、天使が槍を振り上げた瞬間が切り取られており、天井からは金色の光芒が射していますね。

 

何よりも驚嘆すべきは、緻密に計算された光でしょう。

この像の天井は、自然光が射しこむように設計されましたが、その光は天使とテレジアの上半身を効果的に照らし、鑑賞者の視線が奇跡の中心に自然に向かうように作られています。

 

画像からはわかりにくいですが、この彫刻は円柱状に繰りぬかれた壁の中に作られました。

彫刻でありながら、奇跡を具現化した一つの絵画のようですね。

 

この彫刻は、ローマのサンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会に収められています。(外部リンクに接続します。)

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