“スコットランドをパリに再現しよう” ダゲール作『ホリールード寺院』を鑑賞する
目次
作品概要
- 作品名 ホリールード寺院のジオラマ背景
- 画家 ルイ・ジャック・マンデ・ダゲール(1787年~1851年)
- 制作時期 1827年ごろ
ダゲールについて
概要
ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールは18世紀末から19世紀にかけてフランスで活動した画家であり、発明家です。
その名は画家よりも写真家としてのものが有名でしょう。
彼はダゲレオカメラを考案し、それまで1日かかっていた撮影作業を数分間に短縮しました。
ダゲールの功績はフランス政府に讃えられ、エッフェル塔にその名が刻まれています。
生涯
パノラマ画を学ぶ
ダゲールは1787年のフランスに生まれます。
ダゲールは2~8歳の時にフランス革命を経験し、14歳からはナポレオン率いる第1帝政を経験しました。
またその7年後にはルイ18世が王政を復古し、さらに43歳や61歳の年にも革命を経験しています。
貴族たちが権力を奪い合う中で、ダゲールは民衆と貴族の中間にいながら文化を研究したのですね。
彼はパノラマ画家のプレポに弟子入りし、風景を中心としたパノラマ画や劇場の設計を勉強したそうです。
着実に技術を重ね、32歳の時には自分がデザインしたジオラマ劇場をパリに開設しました。
写真の研究
彼に転機が訪れたのは42歳の時です。
ダゲールは発明家ニエプスと共に写真技術の改良を研究しました。
当時の写真は露光時間を8時間も必要としていたため、肖像・風景写真を含めあらゆる面で実用的ではありません。
研究に着手した4年後にニエプスは他界してしましましたが、ダゲールはその後も研究を進め、ついに銀板写真法を確立しました。
これを用いたダゲレオカメラは露光時間を10~20分に短縮することができ、写真界に革命をもたらします。
その後もダゲールはカメラの改良を続け、最終的には露光時間を1~2分にすることが出来たそうです。
その技術はフランス政府の目に留まり、ダゲレオカメラは瞬く間に世界に普及しました。
同時に、これまでの歴史になかった『映像』という記録方法が人類にもたらされたのですね。
フランス政府はこの功績をたたえ、ダゲールに終身年金を与え、また死後その名前をパリのエッフェル塔に刻みました。
鑑賞
あらためて作品を見てみましょう。
ルイ・ジャック・マンデ・ダゲール作『ホリールード寺院のジオラマ背景』です。
ホリールード寺院はローマ帝国時代にスコットランドに建てられた教会です。
この建物はダゲールの時代にはすでに廃墟になっていましたが、彼はこの建物と周囲の情景をそのままパリに再現することにしました。
巨大なキャンバスは半透明な板でできており、照明の当て方次第で様々な表情を作ることが出来ます。
つまり光の角度や色合い次第で朝焼けや夕闇、果ては星降る夜や差し込む木漏れ日まで再現できたのです。
それはダゲールが技術だけでなく、光の性質を完全に理解していたことを証明するものでした。
細部も非常に緻密に描かれており、隙のない仕上がりといえるでしょう。
あえて靄のかかったように描くことで屋外の雄大さや廃墟としての虚しさを表現しているように思えますね。
ダゲールは目にした景色を機械と絵筆の両方で再現する技術を持っていました。
この作品はイングランドのウォーカーアートギャラリーが所有しています。
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