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“画家の栄枯盛衰” フェルメール 作『ヴァ―ジナルの前に座る女』を鑑賞する

風俗画

作品概要

    • 作品名 ヴァ―ジナルの前に座る女
    • 画家 ヨハネス・フェルメール(1632年 ~ 1675年)
    • 制作時期 1671年ごろ

フェルメールについて

概要

ヨハネス・フェルメールは17世紀 オランダの画家です。

ルネサンスに続くバロックの時代において、フェルメールはベラスケスレンブラントらと共にオランダ芸術界の黄金期を作りました。

“フェルメール・ブルー”という鮮やかな青色は彼を象徴する色彩ですが、顔料としては余りにも高価であったその色がやがて画家を苦しめます。

生涯

遅いデビュー

ヨハネス・フェルメールは1632年にオランダのデルフトに生まれました。

彼の父親は織物職人でしたが、その傍らでパブや宿屋も経営する実業家です。また画商としてギルドに登録もされていたようですので、フェルメールは父親を通じて絵画の世界を知ったとも考えられています。

 

本格的に画家として活動を始めたのは、カタリーナと結婚した23歳の頃からです。

カトリックとプロテスタントという宗派の壁に阻まれた結婚でしたが、同郷の画家の立会いの下、晴れて二人は夫婦となったそうです。

カタリーナは裕福な家庭で育っており、ギルドに加盟したフェルメールは嫁の実家で婿として画業に専念することができました。(実際はそれ以前に最低でも6年の下積みを行っているはずですが、その経緯は不明です。)

オランダ芸術界の頂点へ

フェルメールの父親は1650年代に死去しており、それを境に彼は父親のパブなどの経営も並行して行い始めます。

この副収入と、義母のパトロンとしての援助のおかげでフェルメールは画材に費やす経費を潤沢に用意できました。

しかし11人もの子供を抱えていたフェルメールは、生活するために常に奔走していたそうです。

 

25歳になると実業家のファン・ライフェンという、フェルメールにとって最大のパトロンとなる人物に出会います。

これによりフェルメールは、ラピスラズリを原料とした高価な顔料を惜しげもなく作品に使用できるようになりました。

のちに“フェルメール・ブルー”と呼ばれるこのウルトラマリンは、彼を象徴する色彩となります。

ラピスラズリは時代によっては純金と同額で取引されていたそうです。

 

目の覚めるような鮮やかな青色は、色彩の明暗やメリハリを貴重とするバロック芸術に非常に良い効果を与えたでしょう。

フェルメールはこの頃にギルドの理事を最年少で務めており、周囲からの評価も高かったことがわかります。

一転

順風満帆だったフェルメールの画家人生に突如暗雲が立ち込めます

17世紀の後半になると、オランダはイングランドと3度にわたる戦争を行いました。

 

これによりオランダの国土は荒れ、経済は困窮し始めます。

また、フェルメールにかわる若手の画家たちが台頭してきたことにより、彼の評価は相対的に落ち込んでいきました。

もともと制作スピードが遅く作品数も少なかったフェルメールの画業は低迷し、また経済状況の悪化により義母の資産も減っていきます。

さらに有力なパトロンであったファン・ライフェンが死去したことにより、フェルメールはいよいよ経済的に首が回らなくなりました。

 

そして負債を家族に残すという失意の中で、フェルメールは43年の生涯を閉じます。

妻のカタリーナは残った負債を返済するために奔走しましたが、結局それも叶わず、一家は破産しカタリーナは夫の死後12年後に56歳で亡くなりました。

 

フェルメールの生涯は栄光から一転する衝撃的な幕引きでしたが、これは投資と回収のバランスやスピードが歪であったために起きたと考えられます。

彼は時代に振り回された画家と言えるでしょう。

鑑賞

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あらためて作品を見てみましょう。

ヨハネス・フェルメール 作『ヴァ―ジナルの前に座る女』です。

 

ヴァ―ジナルとは鍵盤楽器チェンバロの一種であり、英語圏ではハープシコードと呼ばれています。

作品ではその前で鮮やかな衣装を纏い座った女性が描かれていますね。ドレスの顔料は言わずと知れたフェルメール・ブルーです。

 

奥には1枚の絵がかけられていますが、これはフェルメールの義母が所有していた、ファン・バビューレン 『取り持ち女』です。

フェルメールは画中画に意味を持たせることが多く、この作品の場合、娼婦を描いた絵画を描くことで音楽と性の関連性を表現したかったのだと考えられています。

 

色彩の性質上、青色は衣装やカーテンなどの表現に用いられことが多く、その役割はあくまで”引き立て役”と言えましょう。

しかし高貴さすら持つフェルメール・ブルーの場合は、対象物に神性すら纏わせていますね。

女性もまたニュートラルな微笑で作品の世界観を引き立たせています。

さらに奥の絵画を含めた人物以外の物体を簡素に描くことで、ドレスと女性が自然にメインになりました。

まさに色彩とモデルが調和した作品と言えるでしょう。

 

この作品はイギリスのナショナルギャラリーに所蔵されています。(外部リンクに接続します。)

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