“愛を描いた女性画家” ベルト・モリゾ 作『ゆりかご』を鑑賞する
目次
作品概要
- 作品名 ゆりかご
- 画家 ベルト・モリゾ(1841年~1895年)
- 制作時期 1885年ごろ
モリゾについて
概要
ベルト・モリゾは19世紀のフランスで活躍した女性画家です。
同時代に活躍したフランスの印象派画家 マネと深い親交を持ち、彼の作品のモデルにもなっています。
彼女の家系は画家を輩出するものであり、当初は姉と共に創作活動を行っていました。
その人生は54年と短いものでしたが、家族の情にあふれた作品は高く評価されています。
生涯
姉 エドマ
ベルト・モリゾは1841年に、フランス中央の都市ブールジュに生まれました。ゴシック様式のブールジュ大聖堂は、1992年に世界遺産に登録されましたね。
モリゾ家はロココ時代の画家に関係深い家系であったようで、彼女もまた自然と絵画に興味を持ちだしたそうです。
さらに彼女は、絵画を学ぶ上で非常に大切なパートナーを持っていました。姉のエドマ・モリゾです。
姉妹仲は非常に良く、また2人とも画家を志していました。
ベルトが20歳の時には、ともにバルビゾン派の画家 カミーユ・コローに師事します。
コローは言わずと知れた風景画の巨匠であり、2人が師事する頃には60代を折り返していましたが、
空想の美と写実を絶妙に織り交ぜた作風が高く評価されており、サロンの審査員にも任命されたそうですよ。
モリゾ姉妹は彼のもとで、日々画材を持ってはデッサンに励んでいたそうです。
しかし、2人が切磋琢磨する期間はそれほど長く続きませんでした。姉 エドマが結婚し、母となったためです。
ベルトは姉が芸術の道から身を引くことを悲しみましたが、最後は彼女の家庭とその幸せを願ったそうです。
マネとの出会い
ベルト・モリゾがマネとであったのは27歳の時です。
(この頃の彼女は既に一人の画家として独立しており、2年前にはサロンに出展した2つの作品を入選させています。)
マネは伝統的な風潮や慣習に否定的な人物であり、フランス絵画に革新をもたらした人物です。また、当時若かった印象派の画家たちへ大きなインスピレーションを与えたことから、印象派の草分けとも言われています。
ベルトは、マネの持つカリスマ的な魅力と技術に惹かれ、彼のモデルを務める傍らで多くの画術を修得します。
さらに、マネの友人であるルノワールらとも親交を重ね、自身の持つ知見や感性を成長させました。
そして33歳の折、マネの弟であるウジェーヌと結婚すると、娘 ジュリーを出産しました。
ベルトは夫や娘を大変に愛し、娘や夫を題材にした作品を多く描くようになります。
また、結婚を機に画業を引退した姉とも文通を続けており、手紙の上ではありましたがお互いを支え続けたそうです。
“家族”と”愛”
ベルト・モリゾの画家としてのテーマは、人生を通してこの2つだったのですね。
鑑賞
あらためて作品を見てみましょう。
ベルト・モリゾ作『ゆりかご』です。
ゆりかごの中に響く小さな寝息、そしてそれを見守る母の姿が描かれています。
この作品はベルトが結婚する前に描かれた作品であり、モデルとなったのは姉であるエドマです。
この作品において母親の表情から読み取れる感情は何でしょうか
可愛い我が子への惜しみない愛情と評する人もいれば、
家庭のために自分の人生を諦めた画家の悲壮感と論ずる人もいます。
明確な答えはありません。
しかし、作品全体を包み込む優しい色合いや、人物たちへの繊細な筆致は、ベルトが惜しみない愛情をもってこの作品を描き上げた何よりの証拠と言えましょう。
『ゆりかご』は彼女のキャリアにおいて比較的早くに制作された作品ですが、細かな筆遣いや計算された色遣いなど、一流の画家たるにふさわしい技術が確立されています。
何より彼女の目指す“愛”というテーマが、作品全体をベールのように包み込んでいます。
もしかすると、エドマは妹に自身の画家としての夢を託したのかもしれませんね。
第1回印象派展に出展されたこの作品は、オルセー美術館に収蔵されています。(外部リンクに接続します。)
この記事へのコメントはありません。