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“古典世界との調和” 前編 ボッティチェリ 作『プリマヴェーラ』を鑑賞する

宗教画

作品概要

  • 作品名 プリマヴェーラ
  • 画家 サンドロ・ボッティチェリ(1445年 ~ 1510年)
  • 制作時期 1482年ごろ

ボッティチェリについて

概要

サンドロ・ボッティチェリは15世紀のイタリアで活躍した画家です。

初期のルネサンスにおいて最も高名な画家であり、強いバックホーンをもとに偉大な宗教画を多く制作しました。

また彼の功績で最も大きなものは、新プラトン主義の絵画への導入でしょう。

ボッティチェリはキリスト教の価値観すらも変容させた人物と言えます。

生涯

質素な職人の家庭で

サンドロ・ボッティチェリは、15世紀半ばにイタリアのフィレンツェに生まれました。

質素な家庭の4男として生まれ、かつ病弱な少年時代を過ごしたボッティチェリは、自らの作品にもその陰鬱な時代を反映することがあったそうです。

しかしながら、兄とともに習った芸術家としての初等教育や、師との出会いによって彼は誇るべき才能を養っていきます。

 

彼の師は当時のフィレンツェを代表する画家であったフィリッポリッピです。

奔放な師匠の下での3年間の修行で、ボッティチェリはフレスコ画を始めとした多くの作品を制作します。

勤勉だったボッティチェリは、師の作風をほぼ完璧に習得し、さらにポッライオーロやヴェロッキオの工房で自身の絵画の領域を広げました。

独立

20代半ばに差し掛かる頃には自らの工房を持ち独立していたそうです。

この時裁判所の依頼で、キリスト教における七つの徳の一つである“剛毅”を表した絵画ですが、ボッティチェリは他の画家が制作した“徳”たちとは全く違うニュアンスのものを制作していました。

そもそも七徳の総責任者は画家のポッライオーロでしたが、ボッティチェリは彼の図案を一部無視するかたちで制作を進めたそうです。

 

しかしながら、それによって堅牢たる剛毅のイメージはより強く放たれました。

すでにボッティチェリは同世代・同時代の画家たちとは異なった、彼独自の世界観を作り始めていたのですね。

新プラトン主義

数百年に渡り、キリスト教は他宗教に対して排他的でした。

ルネサンスが起こるまで、古代の技術や文化が自然と秘匿されたのもこのためであり、故にギリシャやローマ神話の神々や教えは長らく人目に触れませんでした。

 

プラトン主義(プラトニズム)では、この世界は“イデア”という理想世界ののようなものであるとしています。

さらに続く哲学者たちは、万物は”イデア”から流れ出た残滓であるという新プラトン主義(ネオプラトニズム)を作り出しました。

この世界におけるすべての”種”は、イデアに存在する理想の”種”を目指して進化している、と考えたのです。

 

この考え方は、キリスト世界にとって斬新であると同時に感嘆を覚えるものでした。

人々は、理想世界の自分を目指して日々良く生きるべきだと考えたのです。

善良な魂がイエスの審判に導かれるというキリスト教において、新プラトン主義はモチベーションを上げるための最高の考え方だったのですね。

古代の文献たちはルネサンス社会の中で次々に翻訳され、キリスト世界に広がりました。

 

新プラトン主義の中核をなすのは『愛』であり、他者・自己それぞれに向ける愛や思いやりが、魂を洗練しそれをイデアへと導きます。

それにより、もともと忌避すべきだったギリシャ神話の愛の女神『ヴィーナス』(ローマ神話では『ウェヌス』)は、たちまちその象徴として崇拝されることとなりました。

 

ボッティチェリは自らの解釈も加えながら、歴史の影に埋もれていた女神を表舞台へと導いたのです。

鑑賞

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あらためて作品を見てみましょう。

サンドロ・ボッティチェリ 作『プリマヴェーラ』です。

 

イタリア語で“春”を意味するこの作品は、ヴィーナスを中心として、万物が成長する春を象徴的に表しています。

中央からこちらを見つめる女神がヴィーナスですね。彼女はこのオレンジ園の主であり、それを囲むように三美神キューピッド、そして未だ論争されている謎の女神がいます。

画面右の灰色の精霊は西風の神ゼピュロスであり、彼が襲っているのは樹木のニンフ クローリスです。

クローリスはやがてゼピュロスに娶られ花の女神フローラへと昇華し、その吐息は花々に活力を与えます。

画面左にいるのはヘルメス(ローマ神話ではメルクリウスもしくはマーキュリー)で、園にたちこめんとする雨雲を払っていますね。

 

この作品はメディチ家の依頼で作られたとされており、その証拠に三美神がメディチ家を表す宝石を身に着けています。

また、オレンジはメディチ家の象徴だそうです。

 

ボッティチェリは、ルネサンスによって導かれた人体描写、構成、宗教学を駆使しこの理想世界の神々を再現しました。

華やかでありながら、どことなく浮世離れした世界観を描き切ったことは、まさに感嘆すべき偉業でしょう。

同時に、隠匿されていた思想を解き放ったことで中世の精神的世界観を進化させたとも言えます。

それまで抽象的だった”愛”や”正義”といった曖昧な概念は、この時からよりイメージしやすい姿へと変化しました。

 

この作品はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されています。(外部リンクに接続します。)

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