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“アイデンティティの補完” ミュシャ 作 『スラヴ叙事詩』を鑑賞する

宗教画

作品概要

  • 作品名 スラヴ叙事詩 -ルヤナ島のスヴァントヴィト祭-
  • 画家 アルフォンス・ミュシャ(1860年~1939年)
  • 制作時期 1912年ごろ

ミュシャについて

概要

アルフォンス・マリア・ミュシャはチェコの画家でありグラフィックデザイナーです。

アール・ヌーヴォーを代表する画家で、花や星座、果ては季節といった概念すらも女性として書き上げました。

すなわち擬人化の草分けとなった画家です。

本項では、彼の民族的アイデンティティを体現した作品を解説します。

生涯

作品のテーマ -スラヴ叙事詩について-

概要

スラブ叙事詩とはその名の通り、スラヴ民族に伝わる民間神話です。

チェコ国民の多くは、スラヴ人やケルト人を祖先に持っており、ミュシャは20作に及ぶ連作でこの叙事詩を描き上げました。

また、その作品の多くは大判のキャンバスに描かれたダイナミックなものです。

スラヴ人について

スラヴ人は東欧に起源をもつ民族です。

チェコにはもともと、北欧から移り住んだケルト人が暮らしていましたが、そこへゲルマン人やスラヴ人が移住し現在に至ります。

スラヴ人は文字を持たない民族であったため、その伝承や神話は基本的に口伝で語り継がれてきたでしょう。

スラヴの神話

故にスラヴ神話は、謎の部分が多いです。

この神話の研究の手がかりとなったのは、その土地に住む人々の口伝や、キリスト教の書物に書かれた“異教信仰”の項目だけでした。

 

それらによると、スラヴの神々は東・西・南スラヴにそれぞれ独立して存在しているようです。

その性質は、太陽神と言った他の神話にも存在するようなものから、軍神や女性の労働を守護する神といった特異なものまであります。

また、日本での古い民俗信仰や八百万の神々に見られるような、水や森の精霊も語り継がれています。

 

故にスラヴ神話は、自然や日々の生活に根差した土着の神性に重点を置いているように思えますね。

鑑賞

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あらためて作品を見てみましょう。

ミュシャ作『スラヴ叙事詩 -ルヤナ島のスヴァントヴィト祭-』です。

 

ミュシャは自身の民族的なルーツであるスラヴ神話を調査し、長大な絵画のシリーズにまとめました。

この作品には、ルヤナ島で行われた収穫祭の様子が描かれていますが、なんとその上空では北欧神話における神々の戦いが始まっています。

左上の狼を引き連れているのが、北欧神話の雷神トールです。

 

この収穫祭が行われていた神殿は、12世紀に他民族によって滅ぼされてしまいますが、ミュシャはそれを揶揄したのかもしれませんね。

右下を見ますと、俯いた青年に後ろから抱きつくかたちでローブを纏った者が描かれていますが、これが西スラヴの最高神であるスヴェントヴィトです。

ミュシャはこの作品とともに、

神々が戦う時、救いは芸術にある

と綴っています。

 

この作品はプラハ国立美術館に所蔵されています。(外部リンクに接続します。)

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