“それは手向けなのか” -ヴェルネ作『死の天使』を鑑賞する-
目次
作品概要
- 作品名 死の天使
- 画家 オラース・ヴェルネ(1789年~1863年)
- 制作時期 19世紀半ば
ヴェルネについて
概要
エミール・ジャン=オラース・ヴェルネは19世紀のフランスの画家です。
祖父、父もまた画家であるという芸術家の家系に生まれました。
彼は肖像画や戦争画を得意とし、フランスの復古王政時代に多くの絵画を描きます。
その様は『芸術家ではなく軍人である』と言われるほどでした。
生涯
ヴェルネは1789年にフランスで生まれました。
父であるカルル・ヴェルネのもとで絵画を学んでいく中で、近代的なテーマに魅力を感じたヴェルネは、フランの兵士たちを描くようになります。
ナポレオンが敗れた後のフランスでは、フランス革命によって奪われた地位を取り戻さんとルイ18世が王政を復活させます。
新たなるフランス王国はわずか16年でその幕を閉じますが、社会不安が広がるなどの影響が及びました。
ヴェルネはこの時代にオルレアン公であったルイ・フィリップから戦争の場面を描くように依頼されます。
その作品の評価は良いもので、そこからヴェルネは多くの依頼を受けていくようになりました。
なお、ルイ・フィリップはのちにフランス王となり、ヴェルネの大きなパトロンとなったそうです。
ナポレオン3世(ナポレオンの甥)のフランス第二帝政時代でもヴェルネは戦争画を書き続けました。
ナポレオン三世もまた、ヴェルネの太いパトロンとなったそうですよ。
生々しくも英雄的である彼の戦争画は高い評価を得続けます。
ちなみにクリミア戦争の際には自ら戦場に出向いてその光景を描いていたそうで、その様から『絵を描く軍人』と言われたそうです。
鑑賞
あらためて作品を見てみましょう。
『死の天使』はヴェルネが62歳の時の作品です。
戦争画をメインに描いていたヴェルネのものとしては少し異端な作品かもしれませんね。
この絵は息を引き取った女性が、天使によって天国へ導かれる様子を描いています。
死告天使はミカエルを筆頭にガブリエルやアズラエルなどがいますが、この作品ではフードを被っているために正体はわかりません。
傍らには故人の快復を願っていた親族と思われる人物がおり、反対側の机には聖書やイコンがあります。
この絵のモデルはヴェルネの娘であるルイーズ・ヴェルネであると言われています。
ルイーズはとても美しく、さらに頭が良い女性だったそうです。
彼女は1845年に画家ポール・ドロラーシュと結婚しましたが、彼女の死によってわずか10年で別れることとなりました。
夫ポールは妻の死を嘆き、彼女に捧ぐ絵を描いたそうです。
この『死の天使』はルイーズの死の6年後に描かれており、これもまたルイーズの死を悼むための作品だと思われます。
この作品はロシア サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に展示されています。
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