“1000年前の死生観” 作者不明『六道絵 -地獄草子 3作-』を鑑賞する
本稿は一部グロテスクかつショッキングな描写を含むため、閲覧は注意してください。
目次
作品概要
- 作品名 六道絵 -地獄草子-
- 画家 不明
- 制作時期 12~13世紀ごろ(平安~鎌倉時代)
六道絵について
概要
六道絵とは仏教の世界観を表現した絵巻物です。
仏教では、世界は並行した6つのものが存在し、魂は輪廻転生を繰り返しその中で修行すると言われています。
我々は天道(仏の世界)の1つ前の人間道に生きています。
本稿ではその中でも地獄に関するものを紹介します。
六道
六道は天道/人間道/修羅道/畜生道/餓鬼道/地獄道/に分かれており、それぞれ
- 天道:亡くなった人間が行き着く世界。この世界で悟りを開いた者は浄土へ行く。この世界で寿命を迎えたものは閻魔大王の裁量で他の六道に転生する。
- 人間道:我々のいる世界、天道での修行のための練習舞台。
- 修羅道:阿修羅がいる世界。阿修羅もしくは野蛮な魂は修行の末に人間道に転生することを目指す。
- 畜生道:人間以外の生物がいる世界。
- 餓鬼道:餓鬼という鬼が住む世界。
- 地獄道:罪を犯し、それを悔いなかったものが落ちる世界。詳しくは後述
となっています。
我々が生きている世界は人間道と畜生道が混ざり合った世界ということですね。
地獄草子
地獄草子は平安時代に描かれた地獄に関する絵を集めた作品群です。
地獄には罪とそのための罰に対応した多くの種類が存在しています。
例えば生前に殺しを行い懺悔しなかったものは“等活(とうかつ)地獄”に落ちて1兆6千万年以上殺し合い、
また殺生に加え盗みを行ったものは“黒縄(こくじょう)地獄”で約13兆3千億年にわたり灼熱の拷問具での責め苦を負うと言われています。
餓鬼草子
餓鬼草子はその名の通り餓鬼道を絵に表したものです。
餓鬼とは飢えの果てに食人や人殺しすらも厭わなくなった鬼であり、餓鬼道では彼らが自身の欲のために奪い合いをしています。
この世界は倫理観や秩序が崩壊し、彼らは欲の放出と自らへの悲観のループを繰り返します。
この絵が描かれたのは平安時代末期から鎌倉時代初期と言われています。
この時代は権力を守らんとする貴族とそれを是正せんとする武士が衝突した時代でした。
その被害をもっとも受けたのは平民たちで、彼らは飢えの中で末法的な状況にいました。
手足がやせ細り腹だけが醜く膨らんだ餓鬼たちは、これら平民を表しているとも言われています。
この作品は京都国立博物館に収蔵されています。
雨炎火石
飲酒に絡む罪を犯したものが落ちる叫喚(きょうかん)地獄の様子が描かれています。
ここでは炎を纏う隕石が降り注ぎ、溶けた銅と動物の血が混ざった川が流れており、全身から炎を発する巨人が罪人たちを監視しています。
この作品は東京国立博物館に収蔵されています。
神虫
この作品は地獄を描いたものではありません。
中央の羽虫が神虫であり、これは疫病をまき散らす悪鬼を喰らう善神です。
このような絵は“辟邪絵(へきじゃえ)”と呼ばれ、疫病に苦しむ人々の信仰の対象になったのではないかと言われています。
辟邪絵の歴史は古く、インドの世界遺産『アジャンダー石窟』では1500年前の辟邪絵が見つかりました。
まさに神頼みそのものですね。
この作品は奈良国立博物館に収蔵されています。
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