“古典世界との調和” 後編 ボッティチェリ 作『ヴィーナスの誕生』を鑑賞する
目次
作品概要
- 作品名 ヴィーナスの誕生
- 画家 サンドロ・ボッティチェリ(1445年 ~ 1510年)
- 制作時期 1485年ごろ
ボッティチェリについて
概要
サンドロ・ボッティチェリは15世紀のイタリアで活躍した画家です。
初期のルネサンスにおいて最も高名な画家であり、強いバックホーンをもとに偉大な宗教画を多く制作しました。
また彼の功績で最も大きなものは、新プラトン主義の絵画への導入でしょう。
ボッティチェリはキリスト教の価値観すらも変容させた人物と言えます。
生涯
フィレンツェの動向
新プラトン主義の再興によりキリスト教と古代文化は調和を持ちましたが、やがて2つの信仰はバランスが崩れ始めます。
フィレンツェの支配者たるメディチ家は古典研究に注力していたため、この町のキリスト教の肩身は狭くなりました。
天啓か偶然か、
そんな街に修道士サヴォナローラは現れます。
彼はカトリック系ドミニコ会のキリスト教徒であり、信仰の薄れ始めていたフィレンツェでこれを激しく糾弾し始めました。
また、町を支配するとともに信仰を私欲で汚すメディチ家も糾弾すると、被支配者たる市民たちもこれに同調するようになります。
サヴォナローラは、本来の信仰たるキリスト教に立ち返ることを繰り返し訴え続け、市民はこれに心を動かされたそうです。
1490年代半ばには、メディチ家がフィレンツェから追放されサヴォナローラがこの町の政治顧問となります。
ここに神権政治によるフィレンツェが生まれ、フィレンツェのルネサンスの勢いはやや減衰したのです。
サヴォナローラとボッティチェリ
ボッティチェリもまたサヴォナローラの影響を強く受け、自身の信仰の根底であるキリスト教に立ち返ります。
ゆえにここから晩年に至るまでの彼の作品では、キリストをテーマにしたものが描かれました。
さらにこの影響は作品のモチーフのみならず技法にも表れており、ボッティチェリはルネサンスの発明品の一つである遠近法を捨て、ゴシック様式の技法を再び使いました。
敬虔なる信仰という観点では正しい行為と言えますが、芸術的には後退したと言えましょう。
鑑賞
あらためて作品を見てみましょう。
サンドロ・ボッティチェリ 作『ヴィーナスの誕生』です。
その名の通り、海からヴィーナスが誕生した瞬間が描かれています。
ヴィーナスはギリシャ神話の愛の女神 アフロディーテと同一視されており、彼女は天空神ウラノスの一部から生まれたと言われています。
またアフロディーテはもともと豊穣と繁栄を司る地母神でしたが、時代の変遷とともに昇格したと考えられます。
貝殻は女性の隠喩であり、彼女は誕生とともに西風のゼピュロスに祝福されました。
『プリマヴェーラ』同様にボッティチェリの代表作とされる作品ですが、その構図や人体表現はルネサンス特有のリアリティからは、やや逸脱しています。
ヴィーナスの首は不自然に長く、各部のバランスも歪ですね。
表情ものっぺりとしていて時代すら別の作品ではないかと疑ってしまいます。
しかしながらこの作品は2世紀に描かれた壁画を現代的にアレンジしたものであり、文化の伝導という意味で貴重な役割を果たしました。
また、サヴォナローラの文化的弾圧を逃れた遺産の一つでもあります。
この作品はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されています。(外部リンクに接続します。)
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