“印象と写実の狭間で” ルノワール作『雨傘』を鑑賞する
目次
作品概要
- 作品名 雨傘
- 画家 ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841年~1919年)
- 制作時期 1883年前後
ルノワールについて
概要
ピエール=オーギュスト・ルノワールは19~20世紀にフランスで活躍した画家です。
モネやピサロとともに印象派の確立に貢献した画家の一人ですが、世間からの非難を浴びたために自身の印象派画家としてのスタンスを疑問視することもありました。
彼の評価が確固たるものになるのは50歳を越えてからでした。
生涯
制作背景 -葛藤の時代-
ルノワールは女性の描写を命題としていた画家ですが、印象主義の持つ基本的な性質は、見たままの景色を画家のインスピレーションのままに表現するという風景画に近いものでした。
ですので、印象主義の持つぼやけた輪郭線や感覚的な表現は、ルノワールが本来目指しいていた画風と若干異なり、それ故に彼には苦悩した時期があったそうです。
今回紹介する作品はそのような時代を象徴するものですね。
1880年代の前半、ルノワールは自身の作品に“秩序”を求めるようになります。即ち、構成や輪郭線に明確さを与えたいと考えたのですね。
しかしながらそれは、印象主義と対極を成す古典主義やアカデミズムの考え方でした。
事実、当時のルノワールは新古典主義の巨匠であったドミニク・アングルのもとを訪れていたそうです。
アングルは明確な輪郭線で女性の肢体を描いていますが、これこそまさにルノワールが追い求めていた婦人画の一つだったのですね。
しかしながら印象主義への傾倒も捨てがたいルノワールは、両者の間で揺れ動くこととなります。
鑑賞
あらためて作品を見てみましょう。
ピエール=オーギュスト・ルノワール作『雨傘』です。
まさしくルノワールが揺れ動いていた時期の作品であり、彼の他の時代の作品と比べ、境界線がはっきりとしていることがわかります。
とりわけ顕著なのは、人物たちの衣装や雨傘たちでしょう。
色合いこそ印象主義的な複雑さをしているものの、これら境界線たちの作用で絵画全体からは固い印象を受けます。
取りようによってはメリハリがついているとも言えますので、これはルノワールの言う“秩序”を得ているのかもしれません。
しかし、ドミニク・アングルがルノワールに与えた影響は線だけではありませんでした。絵画全体を支配する”色”です。
遠目に見れば非常に分かりやすいですが、この作品は冷たい青に支配されています。
これでは、雨の風景という前提を含めても過剰に冷たく、景色そのものが得体の知れない寂しさを内包しました。
ルノワールはこの時代を通じて2つの教訓を得ます。
1つは、印象主義への適度な輪郭線の導入
もう1つは暖色の重要性の再発見です。
後に描かれた『浴女たち』や『薔薇を持つガブリエル』は写実性を重視した輪郭線で縁取られた肉体に、彩り豊かな暖色を取り込むことができています。
即ち、この時代を経てルノワールは自身の作風を完全なものにしたのですね。
この作品はロンドンのナショナルギャラリーに収蔵されています。(外部リンクに接続します。)
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